「両目1.0あるのに、運転士を失職した」。鉄道運転士の視力の基準をめぐる記事が、10月5日にダイヤモンド・オンラインに出て、じわじわ話題になっています。両目が1.0なら十分では?と思いますよね。私もそう思ったので、省令の条文を自分で開いて確かめてみました。
まず事実確認。条文には「両眼1.0かつ一眼0.7」とある
鉄道の運転士の免許は、「動力車操縦者運転免許に関する省令」で決まっています。e-Gov法令検索で開くと、別表二の「視機能」の欄に、視力についてこう書かれていました。視力(矯正視力を含む。)が両眼で1.0以上、かつ、一眼でそれぞれ0.7以上であること。

ポイントは、両眼の数字だけでなく、片目ずつの数字も条件になっていることです。記事の見出しにある「片目0.5」は、この「一眼で0.7以上」に届いていません。だから両目で1.0あっても、基準を満たさないことになるようです。

矯正視力を含む、とあるのも大事なところです。メガネやコンタクトで見える数字で測ってよい、ということですね。裸眼でなくてもいい点は、あまり知られていないかもしれません。
基準に当てはめると、どうなる?
条文を読んだだけだとイメージしにくいので、4つのケースを私が自分で当てはめてみました。実際の検査の運用や例外は私にはわからないので、あくまで条文を読んだだけの例です。

ケースBが、記事にある状況に近いです。両眼は1.0でも、片目が0.5だと一眼0.7に足りません。ケースCは逆に、左右とも0.9で両眼1.0に届かないパターンです。どちらも数字が少し足りないだけなのに、結果は変わってしまいます。
ケースDのように、片目が0.7ちょうどでも条文の上では「0.7以上」なので満たします。ぎりぎりのラインがここにあるわけですね。こういう細かい数字は、ニュースの見出しだけだと見えなくなってしまうので、条文を見るのは大事だな、と感じました。
免許を失うのは、第六条のせい?
同じ省令の第六条には、免許の取消又は停止についての決まりがあります。地方運輸局長は、別表二の基準に適合しないこととなったとき、又はそのおそれが生じたときに、運転免許の取消又は停止をすることができる、と読めます。

つまり、免許を取るときだけでなく、取ったあとに視力が落ちて基準に合わなくなった場合も対象になりうる、ということらしいです。記事の男性のように、一度は免許を取った人でも職を失うことがあるのは、こういう仕組みがあるからだと思います。

そもそも運転士が足りていない
記事は、いま鉄道の運転士が足りないことにも触れています。国土交通省が2023年10月に行った調査では、全国172事業者のうち77事業者(45%)が、現在のダイヤに必要な運転士が足りないと答えました。地域鉄道(ローカル鉄道)140事業者に絞ると、70事業者で半数です。

減便の例も、記事にいくつか出ています。福井鉄道は2023年に日中の急行を廃止し、JR四国は2024年に1日17本を減らしました。長崎電気軌道は2026年2月に約14%減便しています。熊本電鉄は本来9人必要な運転士が4人まで減り、2025年2月に25%減便しました。

熊本電鉄はその後「平日限定運転士」という働き方を取り入れて人を確保でき、2026年5月に減便前のダイヤにほぼ戻ったそうです。肥薩おれんじ鉄道は2025年6月から約30%の減便ダイヤで、候補10人を育てて2027年夏の回復を見込んでいる、と書かれています。

記事は、人手不足のなかで安全を守りながら、運転士になるための条件をどこまで見直せるのかを考える内容でした。視力の基準を緩めるべきかどうかは、ここでは私は結論を出していません。条文と数字を確かめるところまでです。
この動画は2024年のニュースで、国土交通省の調査と免許取得年齢の引き下げ検討を伝えています。今回の視力の話とは別ですが、背景を見るのに役立ちます。

みなさんは、安全のための厳しい基準と、人手不足のあいだで、どこに線を引くのがいいと思いますか? ちなみに私は、条文を読むまで「両目で1.0あればいいはず」と思い込んでいました。
あわせて読みたい
参考にしたところ
- e-Gov法令検索「動力車操縦者運転免許に関する省令」(昭和三十一年運輸省令第四十三号)
- ダイヤモンド・オンライン「「両目1.0」でも鉄道運転士を失職…「片目0.5」で免許を失った男性が訴えること」(2026年10月5日)
- ANNnewsCH「地方鉄道半数で運転士不足「ダイヤ組めない」状態も」(2024年2月3日付)
- 話題のきっかけ: 10月5日からSNSでも広がった「両目1.0でも運転士を失職」という記事。写真はウィキメディア・コモンズと公式の法令画面、表は自作です。
