エレベーターに乗ってボタンを押そうとしたら、そこにあるはずのボタンが無かった。
代わりにあったのは、マーカーペンで手描きされたボタンだった。

何が起きていたのか
投稿したのはXユーザーの友田とん(@tomodaton)さん。作家の方で、『あるはずの試み』などの本を出している。
その日エレベーターに乗ったら、ボタンパネルの上に半透明の保護パネルが貼られていた。工事や引っ越しのときによくあるやつだ。
ボタンを傷つけないための養生なんだけど、半透明なのでボタンの位置がよく分からない。何階を押しているのか手探りになる。急いでいるときにこれをやられると地味に困る。

そこで作業した人が、黒いマーカーペンで枠と数字を全部手描きしたらしい。
しかも非常用ボタンのところには、受話器のイラストまで添えてあった。
反応がすごいことに
投稿は46万回以上表示され、いいねは2万3000件を超えた。
「あまりにもかわいい」
「デザインを感じる」
「養生としては気が利いてますね」
「なんだかゆるい文字で良いwwww」

「デザインを感じる」というコメントが個人的にいちばん刺さった。
たしかにこれ、デザインの仕事そのものだと思う。「使う人が困る」という問題があって、それを手元にあるマーカー一本で解決している。パソコンもソフトもいらない。
ゆるい文字が効いている
この投稿がここまで伸びた理由は、たぶん文字がきれいすぎないことにある。
もし定規で線を引いて、印刷したみたいに整った数字が並んでいたら、ここまで反応はなかったと思う。「ちゃんとしてるね」で終わっていた。

ちょっと歪んだ枠と、ゆるい手書きの数字。そこに人の手が見える。誰かが「これじゃ分からないよな」と思って、ポケットからペンを取り出した瞬間が想像できる。
受話器のイラストまで描いたのは、正直やらなくてもよかったはずだ。数字だけあれば用は足りる。それでも描いた。そこが効いている。
養生パネルの話
ちなみにこの保護パネル、正式には「養生」と呼ばれる作業だ。
引っ越しや工事で共用部を傷つけないように、壁やエレベーター内をシートやパネルで覆う。マンションなら管理組合に申請して、作業日だけ設置する、という流れがよくあるらしい。エレベーターは特に傷がつきやすいので、養生の優先度が高い場所になる。

ボタンパネルまで覆うかどうかは現場次第で、覆わない現場も多い。今回は覆ったうえで、見えにくくなった分を手描きで補った形になる。
言われてみれば、養生した結果ボタンが見えなくなるのは本末転倒だ。傷は防げても住民が困る。かといって覆わなければ、台車や家具がぶつかって本当に傷がつく。


その板挟みを、マーカー一本で解決している。
いつの投稿で、どう広がったのか確かめてみた
元の投稿がいつだったのか、まとめサイトのTogetterを見てみた。投稿は2026年8月22日の夜11時36分。2日後の8月24日にまとめられた時点で、いいねは約1万5千件だった。
そのあと9月9日にねとらぼが記事にした時点で、46万回以上表示、いいね2万3000件以上。半月以上かけて、じわじわ伸びていたことになる。バズというより、じっくり広がったタイプの投稿だと思う。
ついでにエレベーターの数も調べた。日本エレベーター協会の調査(2024年度)では、保守契約を結んで点検されているエレベーターは全国で782,223台。そのうち共同住宅用が292,776台だった。
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 元の投稿 | 2026年8月22日 23時36分 | Togetter |
| 8月24日時点のいいね | 約1万5千件 | Togetter |
| 9月9日時点 | 46万回以上表示・いいね2万3000件以上 | ねとらぼ |
| 保守中のエレベーター(2025年3月末) | 782,223台 | 日本エレベーター協会 |
| うち共同住宅用 | 292,776台 | 日本エレベーター協会 |
| 2024年度に新しく付いたエレベーター | 21,728台 | 日本エレベーター協会 |
2024年度に新しく設置されたエレベーターは21,728台、入れ替え(リニューアル)は3,117台。新設やリニューアルの現場があるたびに、どこかで養生が行われているはずだ。そのほとんどは、誰にも見られずに終わっているんだと思う。
建築基準法施行規則6条では、エレベーターの定期検査の報告は「おおむね六月から一年まで」の間隔で行うことになっている。点検や工事の人が出入りする機会は、思っているより多い。
思ったこと
大きな話ではない。マーカーで数字を書いただけだ。
でも46万回以上表示されて、2万3000件を超える「いいね」がついた。それだけ、こういう小さな気遣いを見たい人が多いということなんだと思う。
マニュアルには「ボタンの位置を手描きすること」なんて書いていないはずだ。書いてあったらこんなに味のある字にはならない。定規で引いた線になる。
誰かが自分で判断してやったことだから、見た人がうれしくなる。
みなさんの周りにも、こういう「言われてないのにやってある」ものってありませんか。
参考にした記事・資料
- ねとらぼ「『漫画の世界に入っちゃったのかと』エレベーターに乗ってボタンを押そうとしたら…… 驚きの光景に『これは良いデザイン』『気が利いてますね』」(2026年9月9日)
- Togetter「『エレベーターに乗ったら漫画の世界に入っちゃったのかと思った』抜かりない業者さんによってゆるかわいいスポットが生まれてた」(2026年8月24日)
- 友田とん(@tomodaton)さんのXの投稿(2026年8月22日)
- 日本エレベーター協会「2024年度昇降機設置台数等調査結果報告」(Elevator Journal No.55、PDF)
- e-Gov法令検索「建築基準法施行規則」第6条
写真の出典
- Elevator buttons at Tokyo Operacity Bld in Japan.jpg — Yoh-Plus / CC BY 4.0
- Ringing the elevator alarm.jpg — Dieselducy, Andrew R / CC BY-SA 3.0
- Complex elevator buttons (7121648745).jpg — Karen Mardahl / CC BY-SA 2.0
- Elevator (251599837).jpg — Gustavo Veríssimo / CC BY 2.0
- Complex elevator buttons (7121648745).jpg — Karen Mardahl / CC BY-SA 2.0
- Destination control elevator interior 2.jpg — Edward Orde / CC BY-SA 4.0
- Analysing elevator control buttons (7771545062).jpg — Karen Mardahl / CC BY-SA 2.0
