挙式まで、まだ344日ありました。東京都に住むカップルが、関東地方の式場との契約を電話とメールでキャンセルします。返ってきたのは、約128万円の支払督促でした。
見積額は約428万円。打ち合わせはまだ一度もしていません。この請求を、東京地裁は9月29日付で棄却しました。認められたのは最初に払った申込金10万円の分だけで、追加で払うお金はゼロです。
10月3日に弁護士ドットコムニュースがこの判決を伝えて、Yahoo!ニュースの国内アクセスランキングで1位になっていました。どこで線が引かれたのか、消費者契約法と消費者庁の解説につき合わせてみました。

まず事実確認:契約と判決の中身
契約は2023年。2泊3日の宿泊がついた結婚式プランで、挙式は平日の予定でした。
契約書には、挙式の364日前から181日前までに解約したら「申込金と見積額(税抜)の30%」を払う、と書いてありました。344日前はこの区分に入ります。これで出した額が約128万円です。
式場側はまず東京簡裁に支払督促を申し立てました。カップルが異議を出したので裁判になり、東京地裁に移っています。
| いつ | できごと |
|---|---|
| 2023年 | 2泊3日の宿泊付き結婚式プラン(平日挙式)を契約。申込金10万円、見積額は約428万円(税込) |
| 挙式の344日前 | 電話とメールでキャンセルを伝える |
| その後 | 式場側が東京簡裁に約128万円の支払督促 → カップルが異議 → 訴訟になり東京地裁へ移送 |
| 2026年9月29日付 | 東京地裁が式場側の請求を棄却 |
| 10月3日 | 判決が伝えられる。式場側の代理人は「控訴する」 |
弁護士ドットコムニュース(10月3日)の記事をもとに作成
争点はひとつでした。このキャンセル料が、消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」を超えるかどうか。
判決はまず、宿泊付きプランを扱う事業者の多くが、180日前までの解約料を「申込金と実費」にしている点を見ています。そのうえで、180日以上前の解約なら、通常は別のお客さんに再販売できると判断しました。この時期の解約で式場が失う利益は、平均で0円です。
残るのは、解約までにかかった労務費と実費。労務費は同業他社の約款にならって申込金の額とされました。打ち合わせがなかったので実費も出ていません。すでに払った10万円で足りる、という結論です。

式場側は、空いた日程を売り直すための広告費や内覧会の費用も損害に入れるべきだと主張していました。これも、事業を続けるうえでいつもかかる販管費で、解約で生じた損害ではない、と退けられています。
カップル側の主張が全部通ったわけではありません。打ち合わせもしていないのだから逸失利益はそもそも考えなくていい、という主張は否定されました。契約を結んだ事実だけで、式場は代金を受け取れると期待していい立場にある、という理屈です。
カップル側の代理人は「結論としては妥当なものと考えている」とコメントしました。式場側の代理人は「控訴する」と話しています。

反応:「どこの式場か知りたい」
Yahoo!ニュースのコメントは490件ありました。いちばん目立ったのは、式場の名前を出してほしいという声です。

「1年前の段階で400万円そこそこの予約に対して128万円」は取りすぎ、という書き込みには、「東京ビッグサイトとか日本武道館じゃないんだから」と続いていました。言いたいことはわかります。
ウェディング業界にいたという人は「同じような契約内容でしたよ」と書いていました。この会社だけの話ではなく、業界ではふつうの決め方だ、という見方です。
逆に、契約のときにキャンセル料の説明を受けて納得していたのかが気になる、という人もいました。たしかに記事には、そこまでは書かれていません。

背景:「平均的な損害」の線はどこにある?
消費者契約法9条1項1号は、キャンセル料のうち「平均的な損害の額を超える」部分を無効にする条文です。全部が無効になるわけではなく、超えた分だけ。ここがポイントだと思います。

消費者庁の逐条解説には、ちょうど結婚式場の例が載っていました。使う日が1年以上先なのに契約金額の80%を取るA社は、通常は平均的な損害を超える。前日のキャンセルで80%を取るB社は、超えるとはいえない。同じ80%でも、時期で答えが変わります。

解説には、1年前の平均的な損害が仮に5%なら、事業者が請求できるのは5%分だけ、という書き方もあります。今回の判決は、その中身を申込金の10万円と置きました。見積額の約428万円で割ると2%ちょっと。契約の30%とはだいぶ離れています。
いまの9条には2項もあります。お客さんから求められたら、事業者はキャンセル料の算定根拠の概要を説明するよう努めなければならない、という決まりです。

トラブルの数も見てみました。国民生活センターの集計では、「結婚式関連サービス」の相談は2019年度の2,185件から、2020年度は4,542件に増えています。2.08倍です。コロナで式を延期したりやめたりして、解約料が高くて納得できないという相談が増えた年でした。

消費者庁が2023年12月に出した資料も見ました。「解約料」がからむ2022年度の相談を商品・サービス別に並べると、結婚式場は541件で10位。1位は光回線、2位は賃貸アパートです。一生に何度もない買い物なのに、常連なんですね。

自分たちの見方
判決が引いた線は、わりとシンプルでした。半年以上先なら、日程は売り直せる。売り直せるなら、式場が失うのは準備の手間と実費だけ。
ただ、これは一審の判断です。式場側は控訴する方針で、宿泊付きプランは需要が限られるという主張が上の裁判所でどう扱われるかは、まだわかりません。個人的には、半年も先なら売り直せるという理屈は、上でもそのまま通るかもしれません。
契約する側にできるのは、キャンセル料の表を時期ごとに一行ずつ読むことくらいだと思います。364日前から181日前の欄に何%と書いてあるか。気になったら、計算の根拠を聞いてみてもいい。困ったときは消費者ホットラインの188に相談できます。

式まで344日。ドレスも料理も、まだ何も決まっていない時期でした。払う額が128万円になるか10万円で済むか、その差を分けたのは「日程は売り直せる」という、当たり前に聞こえる一言だったんだと思います。
あわせて読みたい
参考にした記事・資料
- 弁護士ドットコムニュース「結婚式の「344日前」にキャンセル→カップルに128万円請求、東京地裁が棄却「通常は再販売できる」」(2026年10月3日)とコメント欄
- e-Gov法令検索「消費者契約法」第9条
- 消費者庁「消費者契約法 逐条解説」第9条(PDF)
- 消費者庁「解約料に関する現状等について」(PDF・2023年12月)
- 国民生活センター「PIO-NETにみる2020年度の消費生活相談の概要」(PDF・2021年8月5日)
- 話題の出どころ:Yahoo!ニュースのアクセスランキング(国内・10月3日)とコメント欄 · 写真はウィキメディア・コモンズの資料写真と、消費者庁・国民生活センターの資料などをもとに作った表・グラフです
写真の出典
- Tokyo Court Complex Building.jpg — Kakidai / CC BY-SA 4.0
- Tokyokan’isaibansho.jpg — っ / CC BY-SA 3.0
- Shaw memorial chapel04s2040.jpg — 663highland / CC BY 2.5
- Wedding Banquet setting.jpeg — Tracy Hunter / CC BY 2.0
- Summer wedding cake with flower.jpg — Kimberly Vardeman / CC BY 2.0
- Intickiechapel.JPG — fitm / CC BY-SA 3.0
