iPS心筋シート「リハート」、世界初の保険での手術。5320万円の治療はどう受けられるのか確かめてみた

iPS心筋シート「リハート」、世界初の保険での手術。5320万円の治療はどう受けられるのか確かめてみた

9月29日のお昼、5ちゃんねるに「iPS細胞発表から20年 心臓治しちゃった 実用化」というスレが立ちました。

iPS細胞でつくった心臓のシートが、保険の治療として初めて患者さんに使われた、というニュースです。スレには「コレ凄いよなあ勝手に動くだもん」という声がありました。一方で「20年かけてこの段階なのか」という書き込みも。

「実用化」って、何がどこまで決まったのか。お値段の5320万円は、だれが払うのか。記事を読みくらべて確かめてみました。

まず事実確認

日テレNEWSによると、手術は9月29日、大阪市の大阪けいさつ病院でおこなわれました。始まったのは午前11時16分。終わったのは午後0時8分です。50分ほどでした。

使われたのは「リハート」という製品です。iPS細胞を心臓の筋肉の細胞に変えて、シートの形にしたものです。心筋細胞あわせて1億個ぶんのシートを3枚、心臓の表面にじかに貼りつけます。体の左側の、肋骨のあいだを開いて貼るそうです。

手術を受けたのは、神奈川県に住む50代の女性です。読売テレビによると、4年ほど前に心筋梗塞になりました。そのあと重い心不全と診断されています。薬の治療を続けても、大きな回復はなかったそうです。

MBSニュースの取材では、ふだんの様子をこう話していました。「ちょっとした階段とか坂道とかでもすごく息切れしたり、重いものが持てなくなる」。そして「まず犬の散歩に思い切り行きたい。ママさんバレーをやってたのでそれもやりたい」とも。

術後の経過は順調だそうです。朝日新聞によると、うまくいけば2週間から1カ月ほどで退院できる見込みです。

iPS細胞でつくった製品が、国の承認を受けて保険の治療で使われるのは世界で初めて。京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞をつくったのが2006年なので、ちょうど20年になります。

5320万円は、だれが払うのか

いちばん気になったのはお値段です。リハートの公定価格は5320万円。ここだけ見ると、ふつうの人には無理な治療に見えます。

でも、リハートは公的な医療保険の対象です。日テレNEWSは、高額療養費制度を使えば、患者の自己負担は一定の額におさえられると伝えています。

MBSニュースでは、女性本人の話として「10万円前後で手術を受けられる」と紹介していました。ただ、これは女性の話によるものです。実際の負担は、年齢や収入で変わる制度なので、人によってちがうはずです。

5ちゃんねるには「また社会保険料が上がるのか」という書き込みもありました。本人の負担が小さいぶん、残りはみんなの保険料や税金から出ます。ここは素直に気になるところだと思います。

ニュースを見た人たちの反応(5ちゃんねる ニュース速報板の書き込みより)
ニュースを見た人たちの反応(5ちゃんねる ニュース速報板の書き込みより)

「実用化」でも、まだ仮の合格

じつは、リハートの承認は「条件・期限付き」です。厚生労働省が今年3月に出した承認で、いわば仮の合格みたいなものです。

日テレNEWSによると、開発したクオリプスは、2033年までに75人をめどに手術をします。そこで心臓の働きがどう変わるかを調べて、効き目を証明しないといけません。今回の女性は、その75人の1人目です。

今後は20ほどの病院で同じ手術をする計画で、いま8例ほどが決まっているそうです。

手術がおこなわれた大阪けいさつ病院(資料写真・ウィキメディア・コモンズ)
手術がおこなわれた大阪けいさつ病院(資料写真・ウィキメディア・コモンズ)

スレの「心臓に貼り付けた、まではいい。んで、心臓は正常になったの?」という書き込みは、たぶんここを突いています。手術がうまくいったことと、治療が効くことは、別の話なんですよね。

執刀した医師のことば

開発を引っぱってきたのは、大阪大学の澤芳樹名誉教授です。今回の手術もみずから執刀しました。

手術のあと、澤さんは「最初の一歩。できるだけ早い時間にどんどん普及して、同じ病気で苦しむ人が1人でも多く助かってほしい」と話しています。日本テレビの取材には「慎重にデータを解析し証拠を出していかないと世界に通ずる医療にはならない」とも答えていました。

iPS細胞では、パーキンソン病の治療製品「アムシェプリ」も条件付きで承認されています。研究の話だったiPS細胞が、少しずつ病院に出てきている感じです。

ヒトのiPS細胞のコロニー(資料写真・NIH)
ヒトのiPS細胞のコロニー(資料写真・NIH)

個人的には、「犬の散歩に行きたい」という一言がいちばん残りました。20年かかったのは長いけど、その一言のためなら長くないのかも、という気もします。

みなさんは、家族が同じ病気だったら、この治療を受けさせたいと思いますか?それとも、効き目がはっきりするまで待ちますか?

参考にしたところ

写真の出典

  • Osaka Police Hospital.JPG — KishujiRapid / CC BY-SA 3.0

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